みなさんは火を使った祈祷をご存じでしょうか?護摩祈祷(ごまきとう)と呼ばれ、真言宗や天台宗のお寺で行われている密教の教理に裏付けられた荘厳な宗教儀式です。その教えや作法は秘密裏に師匠から弟子に受け継がれる神秘的なものです。
それでは、護摩(ごま)についてご説明していきます。
護摩について
護摩(ごま)の起源
護摩(ごま、梵: homa, ホーマ)とは、仏教やバラモン教、ゾロアスター教などにおいて行われる宗教儀礼で、焚きあげた炎のなかに供物や木を投じたり、炎で煩悩を焼き払ったりして行われます。護摩は「供物」「いけにえ」「供物を捧げること」などの意味するサンスクリット語の“homa(ホーマ)”が語源とされています。
また、ヒンドゥー教の影響により密教化したことで、このホーマの儀式が仏教の中心的なものになっていったと言われます。こうした経緯から、密教に存在する修法となり、護摩の儀式が行われるのは、数ある仏教の宗派のなかでも、天台宗や真言宗、チベット仏教などの「密教」をルーツに持つ宗派のみとなります。
密教とは
密教とは、その漢字にあるとおり、「秘密の教え」を指し、その教えを師から弟子へ直接に、非公開に伝授されることから秘密仏教ともいわれます。日本には、遣唐使として唐に留学していた真言宗の開祖・空海(くうかい)と、天台宗の開祖・最澄(さいちょう)によって伝えられました。密教の教えには「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」「入我我入(にゅうががにゅう)」など難解な言葉が多いのも特徴です。
密教の反対は顕教。顕教ではお釈迦様が説教を聞く人の能力に応じてわかりやすい言葉で教えを説いたのに対し、密教では真理そのものの現れである大日如来が、その究極の教えを説いたものです。密教には厳格なルールがいくつも定められており、その教えや作法が師匠から弟子へと受け継がれています。
密教は神秘的ゆえに、完全に理解するのは難しいかもしれませんが、読み解いていくと徐々に教えの欠片が見えてくるかもしれません。
護摩供養
護摩行の種類
護摩行には、護摩壇に火を点け、火の中に供物や護摩木を投じて祈願する「外護摩(げごま)」と、自分自身を護摩壇に見立てて、仏さまの智慧の炎で自分の心の内なる煩悩に火をつけ焼き払う「内護摩(ないごま)」があります。
護摩というと一般的には前者の外護摩をさすことが多いです。
また、それぞれの目的によって次のように分類されます。
- 息災法(そくさいほう)…災害のないことを祈るもので、旱魃、強風、洪水、地震、火事をはじめ、個人的な苦難、煩悩も対象。
- 増益法(そうやくほう)…単に災害を除くだけではなく、積極的に幸福を倍増させる。福徳繁栄を目的とする修法。長寿延命、縁結びもその対象。
- 調伏法(ちょうぶくほう)…怨敵、魔障を除去する修法。悪行をおさえることが目的であるから、他の修法よりすぐれた阿闍梨がこれを行う。
- 敬愛法(けいあいほう)…調伏とは逆に、他を敬い愛する平和円満を祈る法。
- 鉤召法(こうちょうほう)…諸尊・善神・自分の愛する者を召し集めるための修法。
護摩の手順
護摩の行は主に以下のような手順で行われます:
- 護摩壇の設置:特別に設けられた壇に護摩壇を設置します。この壇には護摩木を積み、火を焚く準備をします。
- 護摩木の奉納:供養に参加する人々が、護摩木と一緒に個人の願いを込めた護摩札やその他の供物を護摩火に投じます。
- 真言の唱え:僧侶が特定の真言や経文を唱えながら護摩木を燃やし、煙とともに願いや祈りを天に届けるとされています。
- 祈願:参加者は自分の願いや、亡くなった人々の供養を心から祈ります。この時、健康、幸福、悪運転換など、様々な願いが込められます。
- 儀式の締めくくり:全ての供物が燃え尽きると、儀式は終了し、僧侶による最終祈祷が行われます。
■護摩木(ごまき)とは
「護摩木」とは、護摩の儀式で火を焚くために用いられる木材のことです。この木は、祈りや願い事が神仏に届くとされ、煙と共に願いが昇っていく象徴とされています。護摩木は、清められた特別な木であり、サクラやクスノキなどがよく使われます。
護摩壇の前は何百度という温度になり、火に触れなくても熱風で火傷する場合もあるほど危険です。
護摩を行う僧侶は長年修行を積み、護摩の炎に耐えられるようになると言われています。護摩を行うことによって、修行者は精神的な力を高め、悟りに近づくとされています。
まとめ
護摩供は壇の中で燃え盛る炎に護摩木や供物を投じ、大日如来や不動明王など神仏に願いをささげる祈りの儀礼です。壇の中では炎が勢いよく燃え盛り、壇の前は数百度にもなる過酷な儀礼ですが、天とつながり願いを成就できる神秘的な儀式と言えます。
迫力のある護摩祈祷を体験してみてはいかがでしょうか。